跡リョで恋愛的なものを書く練習をしようシリーズ
サイト及びpixiv再録。跡リョSSS4本。1~3のタイトルは『鳶色に眠る』さまからお借りしました。
1.あなたがわたしをえらんだりゆう
じっと恋人の横顔をみつめる。顔のパーツをひとつひとつ確かめるように。
本当に整った顔だなと思うが、そこに惚れた訳ではない。じゃあどこに惚れたのか?考えてみたが全くわからない。
「今日はやけに誘ってくるじゃねーの」
黙って新聞を読んでいた恋人が、俺の視線に気づいたのかこっちを向く。逃げるように顔をそむける。
「や、誘ってないし。アンタの横顔見てるだけだし」
「それが誘ってるんだよ」
顎をつかまれて無理矢理対面させられる。
「何か考え事をしてるようだが、どうせ俺様のことだろ?」
一体全体この絶対的な自信はどこからくるのだろうか。呆れてため息をつく。
「ハン、ため息つく暇なんてやらねぇぜ?」
顔を引き寄せられ、互いの距離がゼロとなる。数秒後、少し距離が空いた隙に、挑発するように睨みあげる。
「できるんならやってみなよ」
「後で後悔しても知らないぜ?」
怯むことなく返される挑戦的な表情に、何かすとんと自身の中に落ちてきた。その正体に気づいた俺は、何だかおかしくなった。
「何笑ってんだ?」
訝しそうに俺の方を伺う恋人。その反応も当然だ。俺は普段あまり笑わないから。
「いや、アンタと俺って似てるなと思って」
笑いが止まらないまま答える。
そんなの今更だろと不機嫌そうに返す恋人に、いや俺は今気づいたんだと心の中で返す。
俺たちがお互いを好きな理由も、多分それだって今気づいたんだ。それを口に出したらさらに不機嫌になりそうな気がするから言わないけれども。
2.恋したんじゃないよ
視界の端にうつる偉そうな自称氷のキングに舌打をする。そんなリョーマの様子に気づいた不二が微笑みながらこちらへとやってくる。
「また跡部来てるの?愛されてるねえ」
「俺にとってははた迷惑なだけっすよ」
好きだ、越前。そうっすか、おれは別に好きじゃないっす。
このやり取りを何度繰り返したか、もう覚えていない。跡部のことはテニスが強いから好きだが、いわゆる恋愛感情のそれかと聞かれれば間違いなく首を横に振る。しかし、跡部のそれは恋愛感情だと言うのだ。自分のどこに惹かれたのだろうかと過去を振り返ってみるが全く心当たりがない。それなのに、振られても振られてもゾンビのように立ち直ってくる跡部が理解できない。最初の内は害がなければいいかと放っておいたが、そろそろうざったく感じる。
「毎日ああやって来られちゃあ、ねえ?」
「不二先輩、面白がってないっすか。」
人を食ったような笑顔を見せる先輩をにらみつける。
「俺、全く好かれる要素ないと思うんですけど」
「うーん、それはどうだろうか。」
「何すかその思わせぶりな言葉。心当たりでもあるんすか。」
「といっても僕の主観でしかないから。そういうのは跡部に直接聞いた方がいいと思うよ」
「嫌っす。あの人調子乗って『とうとう俺様のことが気になってきたか?アーン?』とか言いそうじゃないっすか」
不貞腐れた表情で跡部の物真似をするリョーマにより笑みを深める。
「何笑ってんすか」
「いや。越前も跡部がそう言うって思うんなら、実際そういうことじゃないの?」
「言ってる意味がよくわかんないんっすけど」
かわいらしく首を傾げる後輩に、だからね、と優しく言葉を紡ぐ。
「本当に越前は跡部のことが気になってきたんじゃないか、ってこと」
わかった?と聞くと、リョーマは顔を真っ赤にさせて、何も言わずに走り去ってしまった。流石に苛めすぎたかなあと反省していると、物凄い形相でこちらを睨んでくる王様の視線を感じた。威嚇されるようなことをしていない不二はその視線に笑い返してやった。
むしろ褒められたいくらいなんだけどなあ、とつぶやいた言葉は誰にも拾われることなく空へ消えていった。
3.言い訳
景吾と俺の関係は恋人というにはあまりにもさっぱりとした関係だ。
口を開けば軽口を叩くことが多い。同年代の恋人達のようにひっついたりなどしない。俺自身、そういったことがしたくて景吾と付き合っている訳ではないし、多分景吾も同じように思っている。周りの先輩や友人達は本当に恋人なのかと疑ってくるが、たまにはハグしたりキスしたりもする。ただ、そのような雰囲気を周りには一切見せないだけ。
ほんとうに、ごく稀に、人の温もりが欲しくなるときがある。人にさわっていたい、と思うときがある。このようなこと他人にはもちろん家族にも言えない、言いたくない。そういうときは誰にも悟られないようただじっとしておく。ほとんどの人間はそんな俺のささいな変化には気づかないが、景吾はいち早く気づく。そしてそっと甘やかす。何も言わずに俺の近くに来て、まるで普通の恋人のような距離で寄り添う。顔をこちらに向けることはないが、景吾の空気で甘やかされているのだとわかる。こんなとき、年下だからって馬鹿にされている、別に人肌恋しくなんてない、と男としてのプライドが少し邪魔をするが、それを口に出すことなく俺は景吾に体をあずける。きっとここで景吾が俺の顔を見たり、何か声を掛けたならば俺はさっと生意気の鎧を身につけるだろう。景吾はほんとうに俺のことをよくわかっている。
「ちょっと、眠いだけだから」
小さい声でつぶやき、乱暴に景吾の膝にダイブすると、そうかよ、と髪の毛を撫ぜられた。頭に感じる温かさに、言い訳ではなくほんとうに意識がフェードアウトしていった。
4.それはまるで麻薬のような
「お前がこの世で一番好きなものって何だ?」
リョーマはいつものように、休日を恋人である跡部宅で過ごしていた。すぐにでもテニスがしたかったが、どうしてもやらなければいけない仕事を跡部が片づけているのを隣で待っていた。暇つぶしにぺらぺらと雑誌をめくっていると、跡部が仕事の手を止めてこちらを向いた。
「いきなり何」
「いいから答えろよ。」
しばらくじっと恋人を見つめるが、相手は答えを貰うまで仕事に戻る気はなさそうだった。
「…酸素」
「は?」
「だから酸素だってば」
予想外の答えだったのか、目を見開いて言葉を無くす恋人にリョーマは何だかいい気分になる。
「理由は」
「酸素無いと死ぬじゃん」
そんなことより早く仕事を終わらせてテニスがしたいリョーマは興味も無さそうに返事をする。跡部は先ほどの呆然とした表情から、今度は盛大に顔をしかめてなおこちらをずっと見ている。何か言いたいことがあるのは態度と視線でわかったが、そんなことリョーマにはどうだっていい。無視を決め込んで雑誌をめくる。
不意に横からのびてきた手で顔を持ち上げられ、強引に口をふさがれる。
「ッ!」
頭を後ろからおさえられ、空いた方の手で腰を引き寄せられる。せめてもの抵抗に両腕をじたばたと動かしてみるものの、跡部とリョーマの体格からして力の差は明らかだった。跡部はリョーマの抵抗など感じないように、より深く口づけていく。それは体内にある空気すべてを奪うかのようなもの。
「ん、んんッ!」
角度を変えながらより激しく、幾度となくされるそれに息も切れ切れになっていた。最後により深く口づけをして、跡部は離れていく。
「ハアッ、アンタ、イキナリ、ホント、何が、したいの……ッ!」
言葉も途切れ途切れに自分の遙か頭上でにやけている恋人を睨みつける。
「どうだ?」
「どうだ?って、アンタほんと何がしたいの?ワケわかんないんだけど!」
ぶすっとしたあひる口はリョーマにしてみれば遺憾の意を示しただけのものだろうが、跡部の恋人という贔屓目抜きに見てもそれは男心をくすぐるものだった。可愛すぎて内心今すぐにでも抱き竦めたい衝動にかられるが、それをぐっと我慢する。
「お前の生理的欲求に俺様とのキスを加えさせてやる。」
それこそ酸素など目じゃないほどにな!
再度目の前に迫る恋人の秀麗な顔。もう既に結構アンタに溺れてるんだけどねという言葉は心の内だけでつぶやき、黙ってキスを受け入れる。テニスがやりたかっただけのはずなのにいつのまにか流されて、それもまあ悪くはないかななんて思っている自分は相当毒されているのかもしれない。たら何とも言い難い顔をしていた。
(2017.01.21)